2023年10月28日(土)にプレオープンした「CITY CIRCUIT TOKYO BAY」。老舗レーシングチームトムスが手掛ける都市型EVサーキットです。
EVカートの加速感が新感覚のモータースポーツ体験
東京23区内唯一かつ、国内最大級の規模のEVレーシングカートサーキットである「CITY CIRCUIT TOKYO BAY」。
EVレーシングカートは特性上加速の良さが持ち味で、アクセルを踏み込むと、想像以上にすーっと車体が進んでいく感覚が近年のレンタルカートではなかなか味わえなかった感覚です。コースは土地を最大限に活かすためにヘアピンが多くあり、加減速を何度も繰り返すレイアウトですが、EVの加速感が相まってコースレイアウト以上の爽快感を感じられます。
また、大きな排気音を伴うエンジンを用いていないので当然ですが、乗車していても、コース脇から眺めていても、タイヤのスキール音とほんのわずかなモーター音だけが耳に入ってきて、乗っていても、見ていても新鮮な気分になります。
トムスプロデュースのEVカート「EV-KS22」
SKY TRACKで走行できる、中高生以上対象のレンタルカートで、トムスが全日本選手権EVカート車両供給のノウハウを活かしプロデュースしたのが「EV-KS22」です。
フレーム(車体の骨格や安全装備)はイタリア・Birel社のN35を採用。Birelは、レーシングカートブランドとして広く知られ、2005年より販売されているレンタルカート用フレームのN35は世界中のレンタルカート施設で広く採用されており、これまでエンジンを搭載したパッケージが多く存在していましたが、トムスが専用開発したパワーユニットを搭載し、EVカート「EV-KS22」としてCITY CIRCUITに登場しました。
パワーユニットの出力は5Kw、最高速度は80km。しかし地面スレスレに深く座り込む視点の低さと、乗用車と違いほぼ全身が露出した乗車姿勢により体感速度は何倍にもなります。
レンタルカートに失われた2ストローク50ccの乗り心地
ここでレンタルカートの車両の変遷の歴史を振り返ってみます。かつてレンタルカート界の車輌の標準だったのは2ストローク50ccエンジンで、大まかにいえば原付のエンジンを軽量かつ簡素なレーシングカートフレームに載せたものでした。しかし2006年、環境問題への対応として排ガス規制が大幅に厳しくなり、軽量コンパクトで高トルクを出しやすいものの、排気ガスの質と燃費が問題視された2ストロークエンジンは徐々に姿を消しました。時代の流れに乗って、レンタルカート車両も環境配慮のため、燃費と排ガスの質に優れるものの、特に低回転域で非力な、発電機などに用いられる4ストローク200cc汎用エンジンへの転換を迫られます。
また、2000年代は、モータースポーツの安全意識の向上が見られた年代でもありました。フォーミュラー1では、2003年にドライバーの首後ろに装着し、万一のクラッシュの衝撃から人体を保護するHANSが義務化されるなど、プロの世界から安全への意識が向上。レーシングカートにおいても、義務化されていなかったリアプロテクションが徐々に義務化されるようになりました。
全日本カート選手権車両を例に取ると、リアタイヤ後部を覆う黒いパーツがリアプロテクションです。以前はこの部分のバンパーはそもそもパーツとして存在せず、簡素な鉄パイプがついていただけで、リアタイヤに対して接触した他のカートが空中に舞ったり、ドライバーの後頭部を直撃してしまうアクシデントは珍しいものではありませんでした。レンタルカートにおいても安全意識の向上は進み、「EV-KS22」のベースフレームである、「Birel N35」も初期から後部含む4方向のカウルを標準装備したという点では先駆けのレンタルカート車両でした。
「EV-KS22」では、さらにフロントタイヤ含めカートの周りを一周するタイヤ同士の接触を避けるバンパーが取り付けられていますが、施設によっては横転時の安全確保のためのシート後ろのバーやシートベルトといった安全装備を採用するなど、それらのニーズは日に日に高まっていきました。もちろん、より安全にモータースポーツを楽しめる安全装備の普及は素晴らしいことですが、モノを付ければつけるほど、走る・曲がる・止まるの基本性能を低下させる、重量増というレーシングマシンには致命的な欠点がついてまわります。
結果、軽量なマシンに低速からトルクフルなエンジンを合わせることで得られる異次元の回頭性と加速が楽しめたレンタルカートは、重く低速域の加速が苦しく、回頭性の低い真逆の性格になってしまいました。サーキットによってはこうした性格に合わせてストレートが長いコースに改装したり、愛好家のために台数や乗車できるスキルを限定して2ストロークの車両に乗車できるサービスを提供する施設もありました。
一方でドライバーは、なるべくトルクの細い低速域に入らないように減速の少ない走法を探求したり、回頭性を高めるため荷重移動のスキルを磨くといった方法で4ストロークカートを楽しんだのがこれまでの時代でした。
EV動力源がレンタルカートの楽しさを180度変える
しかし、トムスの開発陣は口を揃えてEVによって、カートの楽しさがまた変わってくるといいます。一体それはどういうことなのでしょうか。一般的なエンジンによる駆動は、最大トルクが発生する地点をエンジンがある程度回転した高回転域に設定します。つまり、ある程度速度が乗ってくればより大きな加速ができ、逆に言えば停止状態のような低速から加速することは大変に苦手とします。
一方EV、つまりバッテリーによる駆動は、トルクが0回転の時点から大きく発生し、加速に非常に優れています。これにより、最高速度への到達が早くなり、アクセルの操作に機敏に反応することができます。また、コーナーのために減速してもまたすぐ加速することができるので、コースの速度域の設計がコースレイアウトによる制限を受けにくくなります。
乗用車市場にも現在では多くのEVが出回っており、その理屈を肌で体感した人も増えてきているかもしれません。しかし、速く走ることを目的にした環境でこの効果を体験すると実に新鮮で、これまで感じてきたレンタルカートのフィーリングとは全く異なる楽しさを感じている事に気づきます。
コースレイアウトは、基本的には平たく整地されたほぼ正方形の土地を有効活用するために、デッドスペースをなくしヘアピンで埋めたような構成になっています。バリアでコースが区切られており縁石やグリーンゾーンはありません。そういった意味で、誰もが楽しめるコースという観点でいえば、路面のバンプ・ギャップなどがかなり少なく、体に優しく楽しめるコースと言えます。
しかしながら、EVの加速の良さから前半の2連ヘアピンは最高速に近い速度からのブレーキングを楽しめますし、中盤の複合コーナーはライン取りに悩まされる半径と距離感の組み合わせでテクニックが問われます。最終セクション、ピット横の少しキツめのS字コーナーのような箇所は、全開で行くにはライン取りと速度の乗せ方が正確でなければならず、最初は程よい恐怖心もあり、ここで失速するとホームストレートの最高速が変わってくるという攻略ポイントの一つになっています。
晴れた秋の日に数周走ったのみでの印象ではありますが、レンタルカートによく慣れた人が初めて走って1周32〜3秒に入るかといったところで、ちょうどいいボリューム感のサーキットと言えるでしょう。
すべての人にモータースポーツの未来形を体験してほしい
湾岸エリアに突如現れた「CITY CIRCUIT TOKYO BAY」。ビル群を背景にEVカートが独特のモーター音をヒュンヒュンと控えめに響かせながら走っている姿は実に新鮮で、モータースポーツの未来形を感じます。これから初めてモータースポーツに触れる人はもちろん、しばらく触れていなかった人こそ、新しいEVカートという形だからこそ感じられる楽しさがあり、それをより多くの人に体感してほしいと思えるのが「CITY CIRCUIT TOKYO BAY」です。
記者発表会では、このCITY CIRCUITブランドが国内外100店舗を目指すという発言もあり、全国各地でEVカートからモータースポーツの魅力に触れる人口が増えていくことに期待できます。
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